特別受益
目次
特別受益とは何か
特別受益とは、共同相続人の中に、被相続人より遺贈を受けたり、相続させる旨の遺言により特定の財産を取得したり(広島高裁岡山支部H17.4.11決定)、生前贈与を受けているといった特別の利益を受けている者がいる場合、その特別の利益を「相続分の前渡し」とみて、相続財産に加算(持戻し)し、これを基礎(みなし相続財産)として一応の相続分を算出し、特別の利益を受けた者については、その相続分から特別の利益価格分を控除してその者の具体的相続分を算定するという制度です。
つまり、相続分の前渡しがあると言える場合は、共同相続人間の公平のため、これを考慮して計算しましょうねということです。
どのようにして決めるか
協議・調停で、合意ができれば、それに従って計算をします。
合意ができなければ、遺産分割審判において、特別受益について、裁判所が判断します。
誰の利益を考慮するのか
共同相続人の利益のみ考慮します。
共同相続人の配偶者や子などが利益を受け、間接的に共同相続人も利益を得ていると言えなくもないような事案でも、基本的に、持戻しの対象とは考えません。
特別寄与のような、いわゆる履行補助者論などということは議論されておらず、実質的に共同相続人に贈与したのと同視できるといわるぐらいの特殊な事情がない限りは例外を認めるのは難しいとされていますが、実務では、例外が認められることは、ほぼありません。
「代襲相続が起こった場合、もともと被代襲者が受贈していたものはどうなるのか。」
原則的に、持戻しの対象とします。
ただし、学費等の一身専属的な利益については、持戻しを否定する裁判例があります。
「代襲相続が起こった場合、代襲者が受贈した場合はどうなるのか。」
代襲原因が発生する前の代襲者が受けた贈与は、持戻しの対象としません。
代襲原因発生後の代襲者が受けた贈与は、持戻しの対象になります。
どんな利益が問題になるのか
婚姻関係費用(挙式費用、結納金)につき、主張がされることもあります。しかし、ここでいう「婚姻」は、制定当時の分家的な制度を前提とした用語です。このような制度のもとでの持参金、支度金であればともかく、挙式費用や結納金が遺産の前渡しとは言えないですから、現在の遺産分割実務で、婚姻関係費が特別受益と認められることは、まずないでしょう。
実務で専ら問題になるのは、「生計の資本としての贈与」です。遺産の前渡しと評価できるかどうか、親族間の扶養的な援助を超えるかどうかといった視点から、検討してみましょう。
「兄は、故人から、私立大学の学費を出してもらった。これは特別受益ではないか。」
学費や留学費用が特別受益といえるか、よく問題になります。ただし、扶養的な援助の範囲内とされることも多いようです。
私立大学医学部の入学金は特別受益と認められることもあるようですが、医学部でも学費は特別受益か微妙なところで、その他の通常の学費に関しては、ほぼ特別受益と認められないようです。
親の強い意向で通っていたという場合の入学金や学費は、特別受益と認めがたいでしょうし、実家の家業を継ぐための入額金や学費についても、特別受益とは認めがたいと思われます。
「兄は、タダで故人のアパートに住んでいる。これは特別受益ではないか。」
無料で居住することは、遺産の前渡しといえず、特別受益とは認められないでしょう。
「姉は、故人に家計の援助をしてもらっていた。これは特別受益ではないか。」
よほど極端な額を援助しているなど特殊な事情がない限り、扶養的な援助を超えるものではないとして、特別受益にはあたらないでしょう。母子家庭になった娘に故人が援助する場合なども同様でしょう。
「兄は、故人からお金を借りていた。これは特別受益ではないか。」
借り入れた相続人には返済義務がありますので、特別受益を認めることはできません。
「兄は、人に怪我をさせてしまって、その時の損害賠償金を、故人に払ってもらった。これは特別受益ではないか。」
賠償金の肩代わりは、遺産の前渡しとは言い難いので、特別受益を認めることはできません。
「兄は、故人から、ベンツを買ってもらった。これは特別受益ではないか。」
ベンツなど高級車も含み、耐久消費財(家電・車等)の購入は、「生計の資本」とは言い難く、特別受益と認めることはできません。
「故人の土地の上に、相続人の1人である私の兄が建物を建て、無償で土地を使用している。これは特別受益ではないか。」
この点、①使用貸借の設定による利益と②土地を無償使用した利益(地代相当額)の2つについて特別受益にあたるか問題になります。
実務的には、①は特別受益と認められ、②は認められません。
①については、使用貸借権=土地評価の1~3割が特別受益になりますが、同時に、使用貸借権減価分だけ土地の評価が下がるため、使用貸借権者がその土地を相続する限り、差し引きゼロになります。
「故人の土地の上に、相続人の1人である私の兄が建物を建て、地代を払いながら土地を使用している。これは特別受益ではないか。」
この場合、権利金が支払われていれば特別受益とは認められず、権利金が支払われていなければ権利金相当額が特別受益になるとされています。
「兄は、多額の生命保険を受け取っている。これは特別受益ではないか。」
実務上、おそらく、最も判断に悩むのが、この生命保険金の特別受益該当性になろうかと思われます。
生命保険金は、保険契約の対価として受領するもので、故人が受取人になっている場合を除き、遺産ではありません。
原則として、遺贈又は生前贈与にあたらず、特別受益になりません。
ただし、例外的に、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる 不公平が、特別受益による具体的相続分の調整の制度の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものと評価すべき特段の事情が存する場合には、民法903条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象になるとされています(最高裁H16.10.29決定)。
そして、例外に該当するか否かは、①遺産総額と保険金総額を比較し、おおむね50%を超えるか否かが一応の基準となるが、②同居の有無、③被相続人の介護等に対する貢献の度合い、④相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、⑤各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断するとされています。
最高裁が示している基準は、個別具体的に検討しましょうということで、わかりやすい明確なものではありませんから、これが特別受益かどうかは、非常に悩ましいと思います。弁護士と一緒に検討してみましょう。
以上のとおり、さまざまな事項が問題になりますが、生命保険を除けば、既に述べたとおり、遺産の前渡しと言えるか、通常の扶養の範囲を超えていると言えるかという観点から検討することで、おおよその方向性は見いだせるでしょう。
特別受益をどう評価するか
遺産の評価基準時は、遺産分割時でしたが、特別受益の評価基準時は、相続時になります。
遺産分割時と相続時の二時点評価になるわけですが、相続時と遺産分割時があまり離れていない場合などは、相続人全員で合意の上、一時点評価をした上で協議・調停を進めるということもあるようです。
現金預金を授受した場合の特別受益は、「当時の受益額×消費者物価指数の変動率」で計算します。何十年も前の相続につき、今から遺産分割するという場合などには、問題になってくるかもしれません。
持戻しが免除されるのはどのような場合か
特別受益が認められたら、該当する相続人は、既に遺産の前渡しを受けているとして、持戻しを行いますが、要は、計算上、これからの取り分が少なくなってしまいます。
しかし、被相続人が、遺留分に反しない限度で、その持戻しを免除して、その相続人の取り分を結果的に増やせるということが認められています(持戻し免除の意思表示)。
生計の資本の贈与に関する特別受益の場合、明示の意思表示でも黙示の意思表示でもよいと言われており、理論的には当該意思表示が認められるかという事実認定の問題ですが、実務的には、公平の観点から、被相続人の合理的意思として認めるべきか否かを判断する傾向にあるようです。
〇=持戻し免除の意思表示認める、×=認めない
- 1人だけ見返りなしに多額の贈与をしている
- 怠け者で働かない息子に生活資金を援助した
- 被相続人が相続人から同居・扶養等の利益を受けている
- 被相続人全員にほぼ同額の贈与をしている
- 病気で働けない息子や母子家庭の娘に生活資金の援助をした
この点も、評価的な要素を含む検討事項であり、弁護士とともに、多角的な検討をしてみませんか。
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