「誰に分けるのか」すらわからず、遺産を分けることはできません。まずは相続人の範囲を確認します。
民法で定められている相続人は、以下のとおりです。
「戸籍をどう集めてよいかわからないし、面倒だ。」
被相続人の、生まれてから亡くなるまでの戸籍をすべて取り寄せ、検討するということが必要です。
相続人が少ない事案であれば、比較的負担が少ない事例もありますが、私が扱う地方の案件では、相続人が十数名、数十名いるということも珍しくはなく、そのような場合は、戸籍集めだけでも相当の手間暇を要します。
弁護士は、職務上必要があれば、戸籍の収集をすることができる権限を持っていますから、これらを行うことができます。
各相続人の住所は、戸籍の附票や住民票により特定します。
「どこの馬の骨かわからない養子がいる。相続人と認めるしかないのか。」
そんなお悩みは、ありませんか。
相続人のなかに養子がいる場合、その養子縁組は無効などとして、その者が相続人にあたるか否かが争われるなどすることがあります(遺産分割の前提問題として、家庭裁判所において、養子縁組無効確認訴訟により解決します。)。真に縁組意思が認められるかが争点となります。
このように、相続人の範囲を確定するにあたって、身分関係や相続人たる地位に関する争いが起こることがあり、これらは別途訴訟等で解決する必要がありますので、注意が必要です。
なお、巷では、節税目的での養子というのも、よく行われているようです。
相続税は、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するとされています。すなわち、相続人が増えれば、基礎控除が増えて、相続税も安くなると考えられます。節税になり得るのです。
最高裁H29.1.31判決も、節税目的の養子は認められるとしました。
ただ、血縁の者ではなく、関係性の薄い養子が入り込んでくると、遺産分割で揉めることが多いようにも感じます。私個人としては、あまりおすすめできない方法です。
その他、相続人の範囲に関する問題として、①婚姻取消、婚姻無効、離婚取消、離婚無効、縁組取消、縁組無効、離縁取消、離縁無効、認知、認知の取消、嫡出否認、親子関係不存在、相続人欠格事由の存否、相続放棄や相続分譲渡の効力を争うもの、包括受遺者であることを争うものなど(紛争が生じたら訴訟により解決)、②推定相続人の廃除及びその取消など(審判で解決)があります。
「相続人の1人が重度の認知症で、協議ができる状態ではない。」
この場合、その相続人について、成年後見等申立てを検討することになります。
「相続人の1人が行方不明だ。」
この場合、その相続人について、不在者財産管理人の選任申立てや失踪宣告の申立て、認定死亡の制度(戸籍法89条、15条)などを検討することになります。
「遺産分割なんて面倒だ。私は何も要らない。」
相続放棄をするか、相続分の譲渡や相続分の放棄を検討してみましょう。遺産分割への参加を希望しない相続人を離脱させたり、当事者を整理したりすることができます。
相続分の譲渡を活用すれば、内縁関係にある者や事実上の養子なども遺産分割に参加できるため、これらの者の保護を図るために活用することもできるかもしれません。
相続分の譲渡は、相続放棄とは異なり、相続人の地位は残ってしまいますので、相続債務は負担することになります(譲受人と重畳的な債務引受。)。相続分の放棄も、同じく、相続債務は負担することになります。債務負担を免れたいという場合は、熟慮期間に注意しながら、相続放棄を検討しましょう。
相続放棄については、こちらをご参照ください。